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水族館の正体 vol.2 |
水族館と学び
社会教育の場としての水族館
水族館を含む博物館は、博物館法によって「社会教育のための機関」と定められています。
また、日本動物園水族館協会(JAZA)が掲げる4つの役割 ―①種の保存、②教育・環境教育、③調査・研究、④レクリエーション― にもあるように「教育」は基本的な使命のひとつです。
つまり、水族館はもともと“学びを通じて社会に貢献する場”として位置づけられており、
全国の水族館で展示や体験プログラムを通じた教育的な取り組みが行われています。
展示を「見る」・「説明文を読む」などの行為は、どうしても受動的になりがちです。
しかし、そこに「参加するプログラム」があることで、体験は一気に能動的なものへと変わります。
近年の教育の現場でも、教員から知識を一方的に受け取るのではなく、学ぶ側が自ら考え・発言し・手を動かす「アクティブラーニング(主体的・対話的で深い学び)」が重視されています。
同じように、水族館でも来館者が自ら考え、体験を通じて理解を深める仕組みづくりをすることが大切です。
水族館のなかでプログラムだけがもつ特徴
水族館の中で、体験プログラムだけが持つ独自の特徴が2つあります。
1. 唯一のアウトプットの場であること
展示を見ている間は、お客さんは基本的に“受け取る側”です。それに対し、プログラムは“参加する側”として能動的に考え、手を動かし、表現することができます。
2. 生物を好きになることにつながる「参加型」
自分の手で工作や観察記録を作ると、その「作った体験」が特別な思い出となり、その対象への愛着が生まれます。
これは行動経済学では「イケア効果」と呼ばれ、自分で作ったものをより価値あるものと感じる現象です。
プログラムに参加することで能動的に行った体験は、生きものや自然を“自分ごと”として感じるきっかけになります。
「?」から「!」への体験デザイン
プログラムづくりでまず大切なのは、来館者の多くは“生きものマニアではない”という前提を忘れないことです。
ほとんどのお客さんは「どこを見ればいいのか」「どう見ればいいのか」が分からないままなんとなく展示を眺めています。
そこで、私たちは参加者の「?(ハテナ)から!(ビックリ)」までの流れを意識して体験を設計します。
? ハテナ
まずは「なぜ?」「どうして?」と疑問を感じてもらうきっかけをつくります。 それは質問を投げかけることでも、観察のポイントを示すことでも構いません。 「わからない」という状態は、学びの出発点です。 インターネット検索や生成AIの登場によって“わからない時間”を短縮できてしまう今だからこそ、 本物の生きものを前にして「わからないことを楽しむ」体験を水族館で味わってほしいと思います。なので、正解や専門的な知識をすぐに伝えることはせずにあえて「もやもや」を生み出す仕掛けをしています。
! ビックリ
次に、その疑問を行動によって解決したり、発見を促すような体験を提供します。
観察、クイズ、工作など、どんな方法であっても「自分の目や手で納得する瞬間」を生み出すことが目的です。
「きんぎょ色あわせ」の体験設計から
「?から!」の流れを、私が過去にデザインした「きんぎょ色あわせ」というプログラムを例に紹介します。
テーマは「金魚の色」です。水族館には色とりどりの金魚が展示されていますが、多くの人は「赤い魚」という大まかな印象だけで通り過ぎてしまいます。そこで、まずは「金魚って、何色だと思いますか?」という問いかけから体験をスタートさせました。あえて正解はすぐには提示せず、心に小さな「もやもや」を残したまま、次のステップへ進んでもらいます。
続くステップは、金魚の形をした台紙に色紙を貼って、自分だけの金魚を作るワークショップです。
貼り付ける紙には、実際の金魚の色素と同じ透け感を持つ5色の素材を用意しました。好きな色を自由に組み合わせながら、子どもたちは「ピンクに見える部分は、実は赤と白の重なりで表現されているんだ!」といった、金魚の色彩の不思議に自然と気づいていきます。
そして仕上げに、完成した金魚へ「自分で名前をつけたタグ」をつけてもらいます。
実はこれ、RPGなどのゲームで「主人公に自分で名前をつける」のと同じ仕組みです。あらかじめ用意されたキャラクターではなく、自分の個人的な想いやセンスが入った名前をつけることで、体験は客観から主観へと一気に切り替わります。 単なる「水族館の金魚の工作」だったものが、名付けた瞬間に「私が作った、私の金魚」という強烈な愛着(自分ごと化)へと変わる。この主観へのスイッチこそが、展示をただ眺めるだけでは終わらせない、次の能動的な行動を引き出すトリガーになるのです。
そして完成した金魚は金魚すくいでおなじみの透明な巾着袋に入れて持ち帰ります。中身が見えるし、お祭りのような気分で持ち歩けるので、それを持ってもう一度、金魚を見に行く人もいます。すると、さっきは「なんとなく」眺めていた水槽の金魚が、今度はまったく違って見えます。「自分が作った金魚と同じ形の金魚だ!」、「さっき赤いと思ってた金魚には色々な色味が混ざっていた!」などなど。——この瞬間が、「!」です。 細かく説明をするのではなく、体験を通じて来館者の「見る」という行為そのものを変えること。それこそが、プログラムという仕組みが持つ本当の力です。
体験の先にある、3つの変化
私たちがデザインするプログラムは、参加者のなかに小さな変化を起こします。
①行動の変化: 「もう一度、あの展示を見に行きたい」と水槽へ引き返す
②思考の変化: 「あ、本当だ!」と、疑問を自分の力で解決する・発見する
③感情の変化: 生きもののことが、参加する前よりも好きになる
ひとつひとつの変化は小さくても、それが積み重なることで、水族館はただの「受け取る場」から、主体的な「学びの場」へと価値を変えていきます。
そのすべての原動力になるのは、やっぱり「楽しかった!」というシンプルな感動です。楽しさのなかにこそ、深い理解と主体性が宿ります。
私たちはこれからも、単に知識を表示するのではなく、「楽しい!」から始まる学び体験を提供することにこだわりつづけます。
2026/06/16
