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感じる水族館 vol.2 |
アートと水族館


すみだ水族館×蜷川実花 クラゲ万華鏡トンネル より
すみだ水族館×蜷川実花 クラゲ万華鏡トンネル より

アート水族館の先駆け

ここ20年間、水族館に「アートブーム」が起こりました。
その先駆けのひとつが、2008年に六本木ヒルズ森タワーで開催された「スカイアクアリウム」。
六本木ヒルズ展望台「東京シティビュー」、地上250mからの眺望と水族館を掛け合わせるという、森ビルによる新しい試みでした。

六本木ヒルズ森タワーは、開業当初から高額な賃料のオフィスや高層マンションに多くの企業経営者や著名人が集まり、「ヒルズ族」と呼ばれる新しいライフスタイル層を生み出した象徴的な存在となりました。
その最上層(賃料のもっとも高いエリア)を自社運営の美術館にしたことは不動産業界でも異例で、そこには社長の「文化を大切にする」という強い思いがありました。そうした背景を持つ森ビルが、展望台でアート要素を取り入れたアクアリウム展を開催したことは、水族館業界にも新しい方向性を示したのかもしれません。

「スカイアクアリウム」は、その後、金魚で有名な「アートアクアリウム」へとつながっていき、現在は銀座三越に常設施設があります。 だんだんと和の世界観が強まっていき、江戸切子や提灯などの「日本の(主に江戸時代を起点とする)伝統工芸とのコラボレーション」・「さまざまな形状のアクリル水槽を使ったインスタレーション的展示」がアートアクアリウムの特徴といえます。



デジタルアートの波と水族館

2010年代にはプロジェクションマッピングのブームが到来します。WOW、teamLab、NAKED、1→10といったデジタルアートを得意とする企業の活躍がめだち始めた時期でもあります。

水族館でのプロジェクションマッピングは、2014年の新江ノ島水族館を皮切りに、すみだ水族館、京都水族館、八景島シーパラダイスなどに広がっていきました。水族館はもともと水槽を見やすくするために暗い空間を持っており、映像を主体とするデジタルアートとの相性は抜群でした。

すみだ水族館「ペンギンキャンディ」

すみだ水族館はペンギンプールの底面に
プロジェクションマッピングをするショーを開催していました


アーティストとのコラボレーション

アーティストと直接コラボレーションする試みもありました。
たとえば2014年、すみだ水族館で行われた「すみだ水族館×蜷川実花 クラゲ万華鏡トンネル」。写真家・映像作家の蜷川実花さんが、生物から着想を得て水槽に映像を投影した作品を展示するなど、新しい形のイベントを実施しました。 すみだ水族館が極彩色の世界に彩られた様子が印象に残っています。現代美術の領域でも活躍するアーティストと水族館がこの規模でコラボしたのは初めてのことだったのではないでしょうか。

そして、ついにはメインコンセプトそのものに「アート」を据えた水族館——atoa(神戸)も2021年に登場しました。
atoaは各ゾーンにイラストレーターの作品が飾られていたり体験型の小さいインスタレーションがあります。宝石を散りばめたかのようなデコラティブな世界観が特徴的で、 直径約3mの球体のメイン水槽はまるで水晶玉のようです。


atoaの直径3mの水槽
atoaの球体水槽(こちらも蜷川実花とコラボレーションしていました)


アート水族館とはなんだったのか

水族館における「アート」という言葉は、美術館での「アート」とは少し異なるニュアンスで使われてきました。 多くの場合、「見た目が美しい」「写真映えする」といった意味合いが強く、社会的なテーマやメッセージ性を持つ美術作品とは距離があります。つまりアート的ではあっても、本来の意味でのアートとは言えないのではと私は感じます。(だからといって否定するわけではありません)

とはいえ、水族館業界にとって「アート」は新しい展示方法に挑戦するきっかけとなりました。そして、「アート×水族館」という言葉の響きやポスターの幻想的なビジュアルによって新規の客層を生んだことは確かでしょう。お客さんにとってはそれが美術館的な「アート」かどうかはあまり関係なく、きれいでわくわくする新しい展示手法に映りました。



なぜ水族館はアートに頼ったのか

日本のアート界が世界から1番注目されたのは1990年代と言われています。
そこから10年以上がすでに経過していた時期に、水族館が異なるジャンルであるアートに目をつけた理由はなんなのでしょうか。

その背景には、動物に芸をさせるショーからの転換期が重なったことがあると私は思います。
アメリカのフロリダ・シーワールドが2016年にシャチの繁殖終了とショー廃止を発表。結果的にこれが「芸を見せるショー」から「自然な行動展示・教育プログラム」へと世界の水族館がシフトしていく契機となりました。

日本でも動物に芸をさせることをやめて自然な姿をみせることに方針転換する動きが生まれましたが、水族館業界は集客につながる「新しいみせかた」を模索していました。その答えのひとつがアートだったと考えられます。特にプロジェクションマッピングは、生物に芸をさせないで、ショータイムを作ることが可能な絶好の方法だったのではないでしょうか。

さらに2010年代は、スマートフォンで暗い空間でも鮮明な写真が撮れるようになる、という技術の進化がおきました。そこにInstagramブームも重なったことで、水族館は「映える写真スポット」としての地位も獲得していくことになるのです。(つづく)

2025/10/15