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感じる水族館 vol.1|
水族館は“夜”が面白い


夜の水族館を象徴する、ナイトモード照明にライトアップされた大水槽
すみだ水族館の大水槽

夜に広がる水族館の新しい楽しみ方

夜の水族館には、日中とは異なる魅力があります。
水槽を照らす特別なライト、ビール片手に眺める魚、足元に響く音楽……。
東京・すみだ水族館の「ナイトアクアリウム」や、札幌・AOAO SAPPOROの「AOAO NIGHT」など、
都市型の水族館ではその立地を活かして、アフター5の夜遊び需要に応える夜間プログラムが活発化しています。近年では猛暑の影響もあり、日中の暑さを避けて訪れる人が増えていることも、人気の背景にあると言えるでしょう。

一方で、郊外型の水族館でも「夜の水族館」と題した特別イベントを開催する動きが広がっています。
普段は夕方に閉館してしまう施設が、夏休みや特定期間のみ夜間開館し、「夜にしか見られない生きものの姿」を見せるプログラムを用意しています。
夜行性の魚の活発な動きや、眠るペンギンの姿など、夜という時間帯だからこそ観察できるリアルな“生態”を前面に打ち出すスタイルは、
今や定番ともいえる夜イベントのひとつです。


立ったままねむるペンギンのペア

ナイトモード照明の本当の理由

また、夜の水族館の定番演出として、ナイトモードの照明演出がありますが、これはカップル向けにうす暗くムーディーにしているというよりも、実は“生きものたちのため”であることが多いのです。
たとえば、AOAO SAPPOROでは夜間に照明を落とすだけでなく、四季に応じて一日の「日照時間」を変化させています。完全な屋内環境であっても、 生物たちが季節を感じ取り、時期に応じた繁殖行動などが毎年確認されている、という施設は多数あります。
こうした「夜」の環境づくりの裏には、生きもの本来のリズムを大切にする飼育の知恵があるのです。



暗闇があなたの感覚を高める?

都会に住んでいると、“本当の暗さ”に触れる機会はなかなかありません。だからこそ、夜の森を歩いているかのような体験ができる「夜の水族館」は、日常から離れた特別な価値を持ちます。
そして、暗闇の中では目から入る情報が減るぶん、日常であまりつかっていなかった感覚がはたらきはじめます。昼間は見過ごしていたことに、あらためて気づくこともあるでしょう。
また、屋内の暗がりは建物の壁や角をやわらかく隠し、人工的な雰囲気を弱める効果もあります。こうしたことから、都会人にとっては暗闇があるだけで普段は忘れている「自然」を感じるのかもしれません。





角をなくせば世界が変わる

建物の角を感じなくなることには展示空間において特別な効果があると私は思います。
たとえば、東京・日暮里駅から徒歩5分の場所にある台東区立朝倉彫塑館という美術館では、彫刻家・朝倉文夫が自らアトリエを設計していて、その空間には壁の角を丸く仕上げた“アール壁”が使われています。
これは、彫刻作品を眺めるときに背景に不要な縦線が映り込まないよう配慮した設計で、実際にこの角のない空間は、やわらかな光に包まれ、そこに展示された彫刻もひきたち、居心地もよく感じられます。
こちらが写真撮影禁止の施設だったため、もう一例をあげると、神奈川県の横須賀美術館の展示室にもアール壁があります。 これによって、展示が壁の角で途切れることなく続いて見ることができます。自然光を取り入れるために丸くあけられた窓もきれいです。


横須賀美術館の展示室(山本理顕展 コミュニティーと建築 を開催中の風景)


水族館でも、ドーム型の展示室や、角を丸く仕上げた空間を見ることがあります。 それもまた、余計な線や情報を排し、水槽の中の生きものだけに視線を集中してもらえる効果があると思います。




▼おわりに

私は「夜の水族館」の魅力をつくっている要素は、特にこの2つだと感じています。

 ① 生きものの“夜の生態”に出会えること
 ② 暗い空間が、鑑賞者の感覚を研ぎ澄ませること

昼とはちがう、夜だけの水族館。 もしまだ体験したことがなければ、ぜひ一度「夜の水族館」を訪れてみてください。
感覚がふっとひらく、不思議な時間が待っているかもしれません。

2025/08/11
“夜遊ぶ人は悪い人です。いい人はここで遊びましょう。” 
ナイトクラブ ピテカントロプス・エレクトスより